【登場人物】
・アーサー・キングストン
主人公 / 名探偵 / 男性
・ザ・フール
ライバル / 大怪盗 / 男女両方可
・ギルバート・レンフィールド
サブキャラ / ギルバート・エンターテイメント社長 / 男性
・ハワード
サブキャラ / ベテラン刑事 / 男女両方可
・サマーズ
サブキャラ / 新米刑事 / 男女両方可
・リー
サブキャラ / リー産業社長 / 男女両方可
・フランキー
サブキャラ / ホログラム技師 / 男女両方可
・シンディ
サブキャラ / アナウンサー / 女性
《第1話シナリオ》
○アーサーの事務所(朝)
アーサーが探偵事務所のキッチンで紅茶を入れている。
[アーサー・M]
「仕事前のルーティーン。朝は一杯の紅茶から始めると決めている。お湯は沸騰させすぎてもいけないし、ぬるすぎてもいけない。なぜなら、適切な温度でないとせっかくの紅茶の香りを飛ばしてしまうからだ。ティーポットは原則、陶磁器か銀製のものを使用する。鉄分を含むポットの使用は、紅茶のタンニンが鉄分と反応して、香りを損なうだけでなく、紅茶の色を黒っぽくしてしまう」
アーサーはポットからティーカップにお湯を注ぐ。
[アーサー・M]
「紅茶の生命は色と香りだ。その色をできるだけ楽しむために、内側は白く、香りが広がりやすい浅い形のカップを揃えている。もちろん、どれも職人の作った一級品だ」
アーサーは紅茶を飲んで一息つき、新聞を広げる。
[アーサー・M]
「紅茶を飲んで一息ついてから、ようやく新聞をチェックする。まったく、新聞というやつはテキトーな記事しか書かないな。どうでもいい芸能人のゴシップに溢れていたので、すぐにそれを閉じてテレビをつけた」
怪盗「ザ・フール」について報道されている。
[シンディ] 「続いてのニュースはこちら。大怪盗、ザ・フールがまたやってくれました。15日の午後8時。警察の包囲網を華麗に掻い潜り、ジュエリーを盗むことに成功…じゃない。えっと…ゴホン。あの…盗んでいきました」
[アーサー]
「ああ、この間の事件か」
[シンディ]
「これまで世界中で活躍…じゃなくて、事件を起こしている彼ですが、今回も最大のライバルである名探偵、アーサー・キングストンが立ちはだかり、ジュエリーの半分は盗まれずに済んだようです。しかし、名探偵と名高いアーサーですが、未だにザ・フールを捕らえることができません」
[アーサー]
「この女、あれのファンか何かか…? 随分と勝手なことを…」
[シンディ]
「そんな名探偵に不満を感じたのか、最もザ・フールの被害にあっているリー産業の社長、アマンダ・リー氏が、怪盗対策に巨額の資金を投じたと情報が入っています」
リー社長のインタビュー動画が流れる。
[リー]
「世間では、魔術師だの大怪盗だのとチヤホヤされているようですが、あれはただのコソ泥ですわ。我々リー産業は、ヤツのトリックを暴くべく、新たな技術開発を開始しました。近いうちにその成果を皆さんにもお伝えできる事でしょう。ヤツの逮捕をもって」
[アーサー]
「私より先にヤツを捕まえようというのか。それは楽しみだな」
[シンディ]
「これまで自慢の美術コレクションを何度も盗まれているリー氏ですが、今回の対策には自信があるようです。ザ・フールが逮捕される日はくるのでしょうか。続いてのニュースはこちら、ギルバート・エンターテイメントが新たなテーマパークの建設を発表…」
インターホンが鳴り、アーサーはテレビを消す。
[アーサー]
「どうぞ」
ハワード警部と、その部下のサマーズ刑事が入ってくる。
[ハワード]
「アーサー君、失礼するよ」
[サマーズ]
「こんちはっす。お邪魔しまーす」
[アーサー]
「ハワード警部、それにサマーズ刑事も。そろそろ来る頃だと思ってました」
[ハワード]
「ニュースを見たかね」
[アーサー]
「リー産業の件ですか? それなら先ほど…」
[サマーズ]
「すごいんすよ、リー産業の技術。今回はマジでヤツを逮捕できるかもしれないっす」
[アーサー]
「ほう、それは喜ばしいことです。この世から犯罪者が一人、いなくなるわけですからね」
[ハワード]
「君は自分の手でヤツを捕まえたいとは思わないのか?」
[アーサー]
「別に。私は依頼があればそれに応えるまでです」
[サマーズ]
「えーっ、じゃあ、依頼がなかったら知らんぷりっすか?」
[アーサー]
「まあ、そういうことになるかな。世間じゃ最大のライバルなんて言われているが、私自身、そこまでヤツにこだわりはないよ」
[ハワード]
「しかし、ヤツの方はそう思っていないみたいだな。またキミ宛にラブレターがきている」
ハワードはアーサーに予告状を手渡す。
[アーサー]
「なになに…来る、リー産業創業十周年パーティーにて、お宝をいただきに参上する。ザ・フール。はっ、また随分とざっくりした予告状だな」
[ハワード]
「裏によく分からない数字がびっしり書かれていてな。キミならその暗号の意味が分かるんじゃないかと思って持ってきた」
[アーサー]
「暗号…なるほど、解読してみましょう」
[サマーズ]
「どうせ、またリーの美術コレクションを盗む気ですよ」
[ハワード]
「毎回そうとも限らんだろう」
[アーサー]
「リー産業も対策を講じるようですし、私の出番はこれくらいしかなさそうですね」
[ハワード]
「いや、私はリーを信用していない。今回も君の力を貸してくれ」
[サマーズ]
「あの会社、色々と黒い噂がありますからね。自分も名探偵が現場にいた方がいいと思います」
[アーサー]
「ふっ、分かりました。ご依頼ということなら承りましょう」
○港(昼)
港には豪華客船が停泊しており、各界の著名人が搭乗を開 始している。
[シンディ]
「ご覧ください。豪華客船、エンプレス号に著名人が次々と乗り込んでいきます。本日はリー産業創業十周年を記念するパーティーの開催日。先日、リー産業の社長、アマンダ・リー氏の元にザ・フールからの予告状が届いたと情報が入っています。豪華客船という密室空間、強化された警備の中、果たしてザ・フールは盗みを実行することができるのでしょうか」
正装したアーサーが車から降りてくる。
[シンディ]
「あ、名探偵のアーサー・キングストン氏の姿が見えました。キングストンさん、リー産業が開発しているという、ザ・フール対策について、リー氏から何か聞いていますか?」
[アーサー]
「私は何も。しかし、私がきたからには、ヤツに好き勝手はさせませんよ。それじゃあ、もう行かないと…」
[シンディ]
「ああっ、もう少しお話を…」
アーサーはシンディの話を無視して船に向かう。
[ハワード]
「有名人は大変だな」
[アーサー]
「もう慣れましたよ」
[サマーズ]
「いやあ、しかし、名探偵VS大怪盗の戦いをこんなに間近で見られるなんて最高ですね」
[ハワード]
「サマーズ、君は仕事をする気があるのか?」
[サマーズ]
「もちろんありますよ。今日こそ捕まえるっすよ、大怪盗!」
[ハワード]
「しかし、今回は我々の出番があるかどうか…」
[アーサー]
「そうですね。ひとまず、リー社長に話を聞いてきます」
○エンプレス号・パーティー会場(昼)
パーティー会場の裏では慌ただしく、準備が進んでいた。 リー社長は大きな装置の前で部下に指示を出している。
[リー]
「すでに予定の時間を押しているわ。急ぎなさい。最終調整が済み次第出港するわよ」
そこにアーサーが現れる。
[アーサー]
「リー社長。ご無沙汰しています」
[リー]
「あら、名探偵のアーサー・キングストンじゃないの。本日のパーティ、招待状を送っていたかしら?」
[アーサー]
「ええ、あなたからではなく、ヤツからですが…」
[リー]
「相変わらず、ヤツはあなたにご執心のようね。こちらとしては好都合ですけど」
[アーサー]
「例のザ・フール対策ついて伺っても?」
[リー]
「ええ、あなたには話しておくわ。我々が今回導入したのはホログラム・キャンセラーよ」
[アーサー]
「ホログラム・キャンセラー…?」
[リー]
「ヤツの使う魔法の正体がホログラム技術であることは一目瞭然よ。人間が空を飛んだり、分身したりするわけがないもの。その魔法を科学の力でひっぺがしてやろうというわけ」
[アーサー]
「なるほど、ヤツがノコノコやってきたところに、その技術を使って正体を暴こうというわけですね」
[リー]
「ええ、今回のパーティはヤツを捕まえるための仕込み。警察をはじめ、警備の人間にホロを纏わせて、客の中に紛れ込ませてある」
[アーサー]
「ヤツは袋の鼠か」
[リー]
「キャンセラーはホログラムの発動を強制的に停止させる。この件がうまくいけば、ホロを使った犯罪も一掃できるわ」
[アーサー]
「そして、あなたはさらに儲けると。まさに一石二鳥ですねえ」
[リー]
「探偵や警察はアテにならないもの。科学こそがこの世を平和に導くのよ。リー産業はそのために存在しているの」
[アーサー]
「作戦の成功を祈っていますよ」
そこにギルバート・エンターテイメントの社長、ギルバートが通りかかる。
[ギルバート]
「ああ、こんなところにいた。リー社長、ステージの設営はほぼ完了しましたよ。あとはその、なんとかキャルセル? ホロ…なんちゃら…?」
[リー]
「ホログラム・キャンセラー」
[ギルバート]
「そう、それ。そいつの調整が終われば楽しいパーティーの始まりだ」
[リー]
「その調整がなぜこうも時間がかかるの。実験の段階ではうまくいっていたはずでしょ」
[ギルバート]
「いや、オレに言われてもねえ。おたくの技術でしょうよ。うちの担当はショータイムの演出だけ…って、そっちのあんた、もしかして、名探偵のアーサー・キングストン? オレ、アンタの大ファンなんだよ」
[アーサー]
「ははっ、ありがとう。そういう君は?」
[ギルバート]
「え、オレを知らない? それマジで言ってる? あんまりテレビとかSNSは見ない方?」
[リー]
「彼はギルバート・エンターテイメントの社長、ギルバート・レンフィールド。今回はショータイムの演出を担当しているわ」
[ギルバート]
「普段はホログラムを使って、テーマパークの運営やライブの演出をするのが主な仕事さ。今日もパーティーを盛り上げにきた」
[リー]
「そのパーティーが始まらないんじゃ意味がないの。キャンセラーの調整を急いで」
[ギルバート]
「だから、それはオレじゃなくて、おたくのエンジニアに…」
そこにホログラム技師のフランキーが、大きな機材を押しながらやってくる。
[フランキー]
「はいはい、どいたどいたー。機材が通るよー」
[ギルバート]
「おい、フランキー。なんとかキャンセラーはどうなってるんだって、リー社長が…」
[フランキー]
「はあ? そりゃあ、ウチらの担当じゃねえだろーが」
[ギルバート]
「手伝ってやれよ。パーティーが始められないってご立腹だ」
[フランキー]
「仕方ねえな。ったく、リー産業のエンジニアはポンコツばっかりかよ。機材の設置もろくにできないんじゃ、話にならねえぜ」
[ギルバート]
「おい、バカ。いいから行け」
フランキーは機材の設置を始める。
[リー]
「あなたのところのエンジニアは、相変わらず口がなっていないわね。代表に似たのかしら?」
[ギルバート]
「まさか、オレ譲りなのは顔がいいってところくらいですよ」
[リー]
「減らず口を叩いていないで、仕事に戻って」
[ギルバート]
「はいはい。それじゃあ、名探偵さん、パーティーを楽しんでいってくれ」
○エンプレス号・パーティ会場(夜)
パーティが始まり、会場は賑わいを見せている。
[サマーズ]
「うわあ、映える料理がこんなに。これSNSに載せていいっすかね」
[ハワード]
「サマーズ、もう一度聞くが、君は仕事をする気があるのか?」
[サマーズ]
「ありますよ。だって、客に紛れてなきゃいけないんでしょ。ザ・フールが現れるまでは、パーティーを楽しまないと」
[ハワード]
「ほどほどにしておけ。いざって時、すぐにヤツを取り押さえられるように…」
その時、照明が落ちて司会のギルバートにスポットが当たる。
[ギルバート]
「皆様、大変長らくお待たせいたしました。本日はリー産業創立20周年という、記念すべき日にお集まりいただき、誠にありがとうございます。リー産業代表のリー氏よりご挨拶申し上げます」
音楽がかかりリーが登壇する。
[リー]
「我々リー産業がここまで大きな会社になったのは、ひとえにここにもお集まりいただいた皆様のおかげですわ。我々の技術は未来をより明るくすることでしょう。これからも、我々と共に…」
その時、突然音楽が止み、照明が落ちる。
[ザ・フール]
「ふふふふふふふ…ふはははははっ!!」
[ギルバート]
「あ? おい、なんだ?」
[リー]
「この声は…!」
[ザ・フール]
「諸君、代表のつまらない挨拶などすっと飛ばして、余興を楽しみたくはないかね?」
どこからともなく、ザ・フールが現れる。
[ハワード]
「ザ・フール…現れたか!」
[ザ・フール]
「私から一つ、面白い余興をお送りしよう」
[リー]
「騙されないで。あれはホログラムよ。本体が近くに潜んでいるはず…今よ、ホログラム・キャンセラーを放って!」
リーの部下が装置を稼働させると、舞台上のザ・フールの姿が砕けて消える。
[ザ・フール]
「おっと、これはまずい…ホログラムが…」
客に紛れていたザ・フールにスポットが当たる。
[リー]
「あっちが本体よ。捕まえて!」
[ハワード]
「サマーズ、やつだ。取り押さえろ!!」
[サマーズ]
「うおおおおおおっ、いけええええっ!!」
何人かがザ・フールに飛びかかり、揉みくちゃになる。
[ハワード]
「つ、捕まえたぞ。ザ・フール!!観念しろ!!」
[サマーズ]
「いだだだだだっ!! ちょっと、先輩、痛いっす。それ自分の腕っすよ」
[ハワード]
「な、何っ!! なぜ、ザ・フールからサマーズの声が…?」
[サマーズ]
「いや、そういうあんたも、姿はヤツなのに先輩の声がする…? どうなってるんすか?」
よく見ると、ザ・フールに飛びかかった数人の姿がみな ザ・フールと同じものになっている。
[リー]
「何よこれ…ザ・フールが何人も…」
[アーサー]
「やられましたね。ホロを纏っていた警官たちの装置がハッキングされた。ヤツの姿を上書きされているんだ」
[リー]
「そんなばかな。ホログラム・キャンセラーが作動しているのよ。どうしてこんな…」
[アーサー]
「ヤツはもうあそこにはいないでしょうね。美術コレクションが危ないかもしれませんよ」
[リー]
「くっ…ちょっと、あなたたち、何やってるの。さっさと配置に戻って!!」
ザ・フールの姿をした警備と警官が入り乱れて取っ組み合いになっている。
[アーサー]
「なるほどヤツの狙いが分かった。私は甲板に出て、やつの逃走経路を塞ぎます。この場は任せましたよ」
アーサーはそう言って、その場を後にする。
[リー]
「ちょっと、アーサー! どういうことよ。詳しく説明しなさい! ちっ、どいつもこいつも…!」
[ハワード]
「どこだ、どこにいった。ザ・フール!!」
[サマーズ]
「痛いっす!やめてくださいよ!うわあああああっ!!」
相変わらず、ザ・フールの姿をした警備と警官たちは、取 っ組み合いをしており収拾がつかない。
[リー]
「そもそも、なぜホログラム・キャンセラーが発動してるのに、ヤツはホログラムを使えるのよ…!!」
[ギルバート]
「あー、えーっと、リー社長。非常に言いづらいんだが、悪い知らせがある」
[リー]
「こんな時に、なによ…!!」
[ギルバート]
「その…肝心のホログラム・キャンセラーが…その…見当たらないというか…盗まれたっぽいっていうか…」
[リー]
「な、な、な、な、なんですってーっ!!」
○エンプレス号・甲板上(夜)
エンプレス号の甲板、小型船に乗り込み、逃走しようとしているザ・フール。
[ザ・フール]
「ふう…ここまでくれば…」
背後から銃を突きつけるアーサー。
[アーサー]
「もう安心だって?」
[ザ・フール]
「これはこれは…我が宿敵、アーサー・キングストンじゃないか」
[アーサー]
「こんばんは。大怪盗殿。もうお帰りかい?」
[ザ・フール]
「ああ、目当てのものは手に入れたのでね」
[アーサー]
「まだパーティは始まったばかりだ。もう少しゆっくりしていったらどうだ?」
[ザ・フール]
「時間稼ぎのつもりかな。その手には乗らないよ」
[アーサー]
「船内に展示してあった美術コレクションには目もくれず、ホログラム・キャンセラーの方を盗むとは恐れ入ったよ」
[ザ・フール]
「予告状にそう書いたつもりだったんだが、君ともあろう人が、まさか読み解けなかったのかな?」
[アーサー]
「君からのラブレターは難解でね。いつも振り回されてばかりだ」
[ザ・フール]
「君との駆け引きを楽しみたいのさ。わかってくれるだろう?」
そこにハワードたちが合流する。
[ハワード]
「いたぞ、あそこだ!」
[サマーズ]
「今度こそ、本物っすか…?」
[ザ・フール]
「警察諸君、一足遅かったね。私はこれで失礼するよ。近いうちにまたお会いしよう」
ザ・フールのホログラムが砕けて消える。
[サマーズ]
「え、消えた…!」
[ハワード]
「また逃したか!」
[アーサー]
「この船も逃走用と見せかけてブラフか…してやられたな」
その様子を少し遠くから見ていたギルバートとリー。
[ギルバート]
「あちゃー、逃げられちゃいましたねえ」
[リー]
「ぐ…コソ泥風情がふざけた真似を…! まだ近くにいる可能性が高いわ。辺りをくまなく探して!!」
[アーサー・M]
「その後、警察が総力を上げて周辺海域を捜索したが、それらしい人影は見当たらなかったという」
○小型クルーザー・船内(深夜)
クルーザーにたどり着くザ・フール。そこにはフランキーの姿がある。
[ザ・フール]
「やあ、フランキー。作戦は上手くいったようだね」
[フランキー]
「ったりめーだろ、タコ。しくじるとでも思ってんのか?機材を設置してるふりをして、ホログラム・キャンセラーをバラして、ちょっとずつパーツを運ぶ。楽勝だな」
[ザ・フール]
「流石だよ。君は最高にイカしたホログラム技師で、凄腕のハッカーだ。おまけに盗みまでできる」
[フランキー]
「もっと褒めてくれてもいいんだぜ。そもそもこのキャンセラーだって、元は誰が設計したと思ってやがる。あめえんだよ、リーのヤツ。勝負する相手が悪かったな」
[ザ・フール]
「フランキー、君は最高の相棒だが口が悪いのが玉に瑕だな」
[フランキー]
「アンタもペラペラ喋んなきゃ、最高のボスのだよ。つーか、ギル。いつまでその気色悪りぃ喋り方するつもりだ?」
[ザ・フール]
「ああ、そうだった。この姿だとついこういう喋り方になってしまうね。だが、もう終わりだ。いつもの自分に戻ろう」
ザ・フールがホログラムを解くと、そこにはギルバートの姿がある。
[ギルバート]
「ふう…どうだ。いつものオレに戻ったぞ。ったく、イケメンだな」
[フランキー]
「言ってろ、タコ。はあ…つーか、腹へった。食いもんは?」
[ギルバート]
「もちろん用意してる。今日のメニューは最高級イタリアンだ。美味いワインも開け放題。三つ星シェフに作らせたフルコースは疲れた体によく効くぞ」
[フランキー]
「ああ、そういうのいいって。いいから、いつものよこせよ」
[ギルバート]
「そうだったな。ソムリエが選んだワインよりも安いコーク。体に悪そうなジャンクが主食。お前はそういうヤツだった」
[フランキー]
「わかってんなら、早くよこせって。あたしはキンキンに冷えたコーラと、熱々のピザが食いてえんだよ」
[ギルバート]
「分かってるよ。えーっと、確かコークはこの辺に…」
ギルバートは飲み物が冷えているクーラーを見つける。
[ギルバート]
「あったあった、こいつだ。それで、熱々のピザだが…多分もうすぐ届くはずだ」
[フランキー]
「はあ? おいおい、ここは海の上だぞ。このクルーザーはステルス機能が搭載してある。外からはここに船があるなんて分かんねえはずだろ。どうやってピザが来んだよ」
すると、いつの間にかピザを片手に持ったアーサーが立っている。
[アーサー]
「ピンポーン。ピザのお届けでーす」
[フランキー]
「は……? おい、まじか。なんでアンタがここにいんの?」
[アーサー]
「ピザのお届けに上がりましたー」
[フランキー]
「……どうやって船の場所が分かったんだ?」
[アーサー]
「どうやっても何も、君のボスから直接ご招待いただいたんだよ。ついでに熱々のピザを持ってこいってね。えー、こちら右からクアトロフォルマッジ、マルゲリータ、シーフードとなっております」
[フランキー]
「っち、おい、こいつのこと苦手だって言わなかったか、タコ」
[ギルバート]
「いいじゃねえか。俺たちチームだろ。無事にお宝をゲットしたんだ。互い健闘を讃えあうべきだぜ」
[フランキー]
「いや、ウチら本来は敵同士って設定だろーが。アンタも何のこのこピザ持ってきてんだよ。怪盗と探偵が一緒に打ち上げってどうなんだ?」
[アーサー]
「私だけ仲間外れしようっていうのか? それは悲しいな。私がいなければ、君たちはとっくにお縄だってことを忘れないでいただきたいね」
[ギルバート]
「ああ、アンタの存在はデカいよ、アーサー。お陰で警察の誘導が楽だし、何より毎回ショーが盛り上がる。やっぱり怪盗にはライバルの探偵が必要だな」
[フランキー]
「はっ、あんた役者の才能があるよ、アーサー」
[アーサー]
「そりゃあ、どうも。それにしても、ギル。今回の予告状…あれは一体なんだ?」
[ギルバート]
「ご要望通りだろ。それっぽい数字をテキトーに並べておいた」
[アーサー]
「だからと言ってテキトーすぎる。解読するフリをする私の身にもなってくれ。警察に説明を求められたらどうするんだ。毎回誤魔化していたら、流石に怪しまれるぞ」
[ギルバート]
「分かった、分かった。次はもう少し分かりやすいラブレターを送るよ、ハニー」
[アーサー]
「ああ、そうしてくれると助かる。次のショーは決まっているのか?」
[ギルバート]
「次はもっとお宝っぽいやつにするさ。リーのやつに嫌がらせするつもりで始めた怪盗業だが、あいつの物ばっかり盗むわけにもいかないんでな」
[フランキー]
「っけ。連中はもっと痛い目見りゃいいんだよ。よその会社から技術を盗んで成り上がった。ウチからも技術者を引き抜いたり、買収したり、やりたい放題だ。ったく、どっちが泥棒だって話だよ」
[ギルバート]
「まあ、そんなわけだから、リーのやつにはたまーにちょっかいを出すとして。これからも、世間を賑わす怪盗ショーを盛り上げていこうぜ、お二人さん」
[アーサー]
「ふっ、望むところだ」
[フランキー]
「まかせとけって」
[ギルバート]
「俺たち三人が揃えば…世界だって騙せる。それじゃあ、乾杯しよう。ザ・フールに」
[二人]
「ザ・フールに」
それぞれ飲みたいものを手に取り、乾杯する。談笑する三人のAD。エンディング。
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