君は強気なジュリエット


【登場人物】

・花崗彩斗

主人公 / ジュリエット役 / 22歳

・二階堂扇

ライバル / ロミオ役 / 20歳

・三島アキ子

ガイド役 / 演出家 / 35歳

・新島大地

サブキャラ / ベンヴォーリオ役 / 28歳

・伊東春希

サブキャラ / マキューシオ役 / 25歳

・坂野勇

サブキャラ / ティボルト役 / 27歳


《第1話シナリオ》


○大きな劇場

友人の付き合いで舞台を見に来ている花崗彩斗《みかげあやと》。初めはつまらなそうだが、徐々にそれに惹かれていく。舞台上には天才子役、二階堂扇《にかいどうおうぎ》の姿がある。


【彩斗M】

「人生において大切なものを一つあげろと言われたら「それは芝居だ」と答えるほど、俺は芝居が好きだ。いや、好きになってしまったんだ。あの日、たまたま見た舞台が俺の心を震わせた。俺はまるで恋にでも落ちるかのように、どうしようもなく、それに惹かれた」


今度は彩斗が俳優として、楽しそうに舞台に立っている。


【彩斗M】

「この世は舞台、人はみな役者。偉大な劇作家ウィリアム・シェイクスピアはそう言った。人生は誰もが自分の役をこなさなきゃならない舞台なんだって。その通りだと思った。この世界は…人生は…劇的だ」


SNSでは彩斗の人気っぷりがツイートされており、ネットニュースには今をときめく超人気俳優という見出しで、彩斗のインタビューが載っている。


【彩斗・インタビュー】

「演劇始めたのは、友人に誘われて舞台を見たのがきっかけです。それから、自分も誰かの人生を演じてみたいって、板の上に立つようになりました。そんで、むしゃらに頑張ってるうちに、今に至るというか…俺、ほんと芝居好きなんすよね」


【彩斗M(?)】

「2.5次元舞台を中心に活躍するイケメン俳優「花崗彩斗(みかげあやと)」といえば、飛ぶ鳥を落とす勢いの人気っぷりで、今をときめく超人気俳優なわけだが、俺自身はまだまだ満足していない」


○居酒屋・男子トイレの個室

居酒屋のトイレで独り言を呟いている彩斗。


【彩斗M(?)】

「たとえ人気漫画が原作の舞台で主役を射止めようとも、誰もが憧れる大きな舞台に立とうとも、どんな有名人と共演しようとも、満たされることはない。俺はいつだって飢えている。そう、まるでサバンナの猛獣のように…!」


いつの間にか個室の扉の向こうには、演出家の三島アキ子がいる。


【アキ子】

「で、その独白はいつ終わるのかな。サバンナの猛獣くーん」


【彩斗】

「…え、あれ…?」


【アキ子】

「打ち上げ中に突然いなくなったと思ったら、こんなところで何してるのかなー?」


【彩斗】

「あのー、俺、口に出てました…?」


【アキ子】

「花崗彩斗は今をときめく超人気俳優とかなんとか…」


【彩斗】

「わああああああっ!!!」


扉を勢いよく開け、慌てて個室から飛び出す彩斗。


【彩斗】

「戻りましょう!! ってか、ここ男子トイレなんでっ!! 戻ってナンボでも聞くんで!!!」


【アキ子】

「ふふ、自分のことを超人気俳優だなんて。相変わらず面白いね、君」


【彩斗】

「い、いいじゃないっすか。今回も俺が主人公だったし…!」


【アキ子】

「そりゃあ、今回の舞台ではね。でも、次回はどうかな〜」


【彩斗】

「え、次回?もう次、決まったんすか?」


【アキ子】

「んー、そろそろマネージャー君から連絡くるんじゃないかな?」


タイミングよく彩斗のスマホが鳴る。


【アキ子】

「ビンゴ。次の役は私からのプレゼントだから。楽しみにしててね。じゃ、早く戻ってきなよー」


そう言って、アキ子はトイレから出て行く。


【彩斗】

「あの人、マジで何なんだ。嵐か?」


スマホには"マネージャー"の文字。電話に出る彩斗。


【彩斗】

「もしもし?」


【マネージャー】

「あ、彩斗くん。前にオーディション受けたロミオとジュリエットの舞台、覚えてる?」


【彩斗】

「もちろん、覚えてますよ」


【マネージャー】

「あれ、彩斗くんで決まったって!」


【彩斗】

「まじっすか!よっしゃあ!!」


彩斗は喜びのあまり、思わずガッツポーズ。


【彩斗】

「で、俺、何役っすかっ? やっぱロミオ?それかティボルトあたりとか? マキューシオもアリかなーなんて…」


【マネージャー】

「なんとなんと……ジュリエット役だよ!」


【彩斗】

「…………は?」


一瞬、思考が停止する彩斗。


【彩斗】

「え、俺の聞き違いっすかね? それは確かヒロインの名前だったような…」


【マネージャー】

「いや、だから、ジュリエット役だよ!」


【彩斗】

「え、じゅりえっと…? つまり、今回のジュリエットは男? 男女逆転的な…もしくは、今流行りのBL系?」


【マネージャー】

「違うよ」


【彩斗】

「え、じゃあ…」


【マネージャー】

「君が女の子をやるんだよ」


【彩斗】

「オレガオンナノコヲヤル?」


【マネージャー】

「今回の企画はシェイクスピアの時代を再現するために、女性キャラも男性キャストがやることになってるって…最初に言わなかったっけ?」


【彩斗】

「いやいや、聞いてないっすよ!ってか、そもそも俺ジュリエットのセリフなんて読んでないし!」


【マネージャー】

「あれ、そうなの?アキ子さんが君を猛プッシュしたって聞いたんだけどな。次も彼女が演出らしいから、よろしく伝えておいてね。じゃあ、詳細はまた送るから」


そう言って一方的に電話は切れる。


【彩斗】

「おいおい、何してくれてんだ、アキ子のやつ…!!」


ワナワナしている彩斗。勢いよく個室を出て、打ち上げの会場に戻る。


○居酒屋・打ち上げ会場

彩斗は勢い任せに一升瓶をラッパ飲みしているアキ子のところに突撃。


【彩斗】

「おい、アキ子!!こりゃあ、一体どういうことだ!!!」


【アキ子】

「え、だから、私からのプレゼント」


【彩斗】

「なんで俺がジュリエットなんだよ…! この見た目じゃ、どう考えても女の子役なんて無理だろ!!」


もともと体格も良く、アクションがある今回の舞台のためにバキバキに鍛え上げている彩斗であった。


【アキ子】

「何も面白半分でキャスティングしたわけじゃないって」


【彩斗】

「いいや、嘘だね!面白がる気満々でしょーが!!」


【アキ子】

「まあまあ、落ち着きなよ。ところで、相手役が誰かは聞いたのかな?」


【彩斗】

「いや、聞いてねえけど」


【アキ子】

「君の相手、つまりロミオ役は、あの二階堂扇《にかいどうおうぎ》だよ」


【彩斗】

「二階堂…って、あの…天才子役って言われてた…?」


【アキ子】

「そう。彼、しばらく海外にいて、これが日本での復帰作になるみたいなんだよね」


【彩斗】

「なんで、あんな天才と俺が…」


【アキ子】

「あの化物級の天才を相手にするなら、君しかいないと思ったんだよ」


【彩斗M】

「二階堂扇…俺より年下だけど、3歳で芸能界デビューを果たして、その圧倒的な才能で近年ハリウッド・デビューまで果たしたマジモンの天才。そんで…」


彩斗は生まれて初めて見た舞台のことを思い出す。主演は二階堂扇、そう歳の変わらない少年の演技に、どうしようもなく惹かれた彩斗。


【彩斗M】

「俺をこの世界に引き摺り込んだ張本人だ」


【アキ子】

「今をときめく超人気俳優としては、是非とも挑んでみたい相手なんじゃないかな?」


【彩斗】

「そりゃあ、共演できるのは嬉しいっすけど…」


【アキ子】

「まあ、挑戦する勇気が出ないって話なら、降りてくれても構わないよ」


【彩斗】

「んなこと言われたら、引き下がれるわけないだろ!」


【アキ子】

「よろしい」


アキ子は計画通りといった顔をしている。それを察する彩斗。


【彩斗】

「く…いいぜ、やってやるよ、ジュリエット役だか、相手が天才だか知らねえけどよ。俺が最高のロミジュリにしてやるよ!!」


【アキ子】

「ほー、それは楽しみだね」


【彩斗M】

「待ってろ、二階堂扇。あんたは俺のこと知らねえかもしれねえけど、俺だってそれなりに芝居をやってきたんだ。絶対に負けねえからな!!」


○顔合わせ会場・会議室

役者・スタッフがそれぞれ名前の書かれた椅子に座っている中、ロミオの席だけが空席になっている。


【彩斗M】

「って、いねえのかよ!!」


【スタッフ】

「えー、ロミオ役の二階堂さんは少々、前現場が押してるようなので、先に始めさせていただきます」


【彩斗M】

「くっそ…なんか調子狂う。俺だけライバル心むき出しみたいじゃんか…」


彩斗が扇の不在を嘆く中、顔合わせが始まる。


【スタッフ】

「では、初めにプロデューサー兼演出家の三島さんから一言、お願いします」


【アキ子】

「はーい。プロデューサー兼演出の三島アキ子でーす。今回の企画はですねえ。シェイクスピアの時代を再現してみようってことで、劇場ではなくドーム球場に当時のグローブ座を模した野外劇場をおっ建てちゃいまーす」


【彩斗M】

「なんか今、すげえことサラッと言ったな。どっから金出てるんだよ」


【アキ子】

「スポンサーに無理言ってお金出させたので、みなさん頑張ってくださーい」


アキ子の奔放さに「大丈夫なのか…」と、どよめくキャスト&スタッフ陣。


【スタッフ】

「えー、それではキャストの皆様、自己紹介をお願いします。まずはジュリエット役の花崗《みかげ》さんから」


緊張した様子の彩斗は勢いよく立ち上がる。


【彩斗】

「うっす!花崗彩斗っす!女役も初めてで、演技に関してはまだまだっすけど、努力なら誰にも負けないつもりです!特にロミオには絶対負けないんで!よろしくお願いします!」


【スタッフ】

「それでは、続いて、ティボルト役の坂野《ばんの》さん」


ロックバンドでギターを演奏していそうな、鋭い雰囲気を持ち、キレキレな服装と強面の顔が特徴的な男が立ち上がる。


【坂野】

「ティボルト役、坂野勇《ばんのいさむ》。よろしくっす」


続いてその隣にいた真面目そうな男が立ち上がる。


【大地】

「ベンヴォーリオ役の新島大地《にいじまだいち》です。アキ子さんには昔からお世話になってます。普段は舞台やテレビ、映画と幅広く活動しています。よろしくお願いします」


続いて、その奥のいかにも陽キャなイケメンが立ち上がる。


【春希】

「どもー、マキューシオ役の伊東春希《いとうはるき》でーす。劇中では真っ先に死にまーす。よろ〜」


一通り、キャストとスタッフが挨拶をする。


【スタッフ】

「えー、それでは一通り自己紹介が終わったところで…」


その時、会議室の扉が開いて、ひどく猫背でボサボサの髪の少年が入ってくる。


【扇】

「すみません。遅れましたー」


【アキ子】

「おや、ようやく主役のご登場だね」


その出立ちは芸能人と言われなければ分からないほど、生気の薄いものだった。


【彩斗M】

「こいつが…あの二階堂扇…」


ぼーっとした様子の扇は、他に見向きもせずにふらふらと彩斗の隣まで歩いてくる。


【扇】

「ねえ、君がジュリエット?」


【彩斗】

「えっ…」


いきなり話しかけられて、返事ができずに固まる彩斗。


【扇】

「女の子役なのに俺よりおっきい感じだね。俺も鍛えたりした方がいいかなあ…えーっと、よろしく…はなおか君」


【彩斗】

「あ、みかげです。みかげあやと。よく間違えられるんすよ、はははっ…」


【扇】

「みかげかあ…ふーん…」


扇は興味を無くしたのか、それ以上会話をせず席に座る。


【彩斗M】

「な、なんだ。こいつ…マイペースかよ…やりづれえ」


【アキ子】

「それじゃあ、主役も来たことだし、軽く読み合わせしてみよっか」


役者陣はあらかじめ配られていた台本をめくる。


【彩斗M】

「ロミオとジュリエットの舞台になるのは、イタリアの都市ヴェローナ。この街にはモンタギュー家とキャピュレット家って二つの家があって、互いにいがみ合っている。第一幕では両家の召使が揉めているところに、モンタギュー家のベンヴォーリオと、キャピュレット家のティボルトが駆けつけるところから始まる」


【大地】

「全員、武器を納めろ! お先真っ暗の向こう見ずども!喧嘩となればすぐに血が上る!」


【坂野】

「武器を納めるならまずはお前だ、ベンヴォーリオ!弱い奴らにだけ力をかざすとは、こいつはなるほど…卑怯者だ」


【大地】

「俺は仲裁に入っただけのこと。お前こそ剣を治めろ、ティボルト。それとも俺と一緒にこの場を治めてくれるのか?」


【坂野】

「虫唾の走るセリフをどうも。これだからモンタギューは地獄ほどに嫌悪したくなる。剣を抜いたら期待することは一つしかないんだ、そうだろうが!さあ、戦え、腰抜け野郎!」


【彩斗M】

「こんな調子で二つの家はずっとバチバチなんだけど、モンタギュー家の嫡男であるロミオは、両家のいがみあいには興味がなかった。ロミオはロザラインという女性にお熱で、彼女のことばかり考えていたんだ」


台本も持たず、扇が立ち上がる。場の空気が一気に変わったことに気づく彩斗。


【扇】

「愛の天使にも、月の女神にも、黄金の誘惑にすら。あの人は屈しないだろう。彼女に触れられないなら、僕はただの屍だ」


先ほどの生気のない少年とは打って変わって、ロミオとしてのセリフを発する扇の変わりように、周りの役者たちは圧倒されている。


【彩斗】

「なっ…!」


【彩斗M】

「ロミオがセリフを発しただけで、この場の空気が変わったのを感じた。他の役者達が台本を読むのに必死な中、こいつだけがすでに世界に入っている」


【扇】

「ああ、どうしたら彼女を忘れられるのか…友よ、まずはそれを教えてくれ」


【彩斗M】

「こんなの聞いてねえよ。稽古もしてないのに、すでに観客に見せても問題ないレベルだなんて、なんなんだよ。ここにいる誰もが、二階堂扇じゃなく、ロミオ・モンタギューを見てる。いや、魅せられてる…!」


ベンヴォーリオ役の大地もロミオの芝居に当てられて、熱が入る。


【大地】

「もう少し君の眼を自由にしてやるのさ。もっと他の女性を見てみたまえ」


【扇】

「どれだけの美女を見ても、僕の心に宿った彼女の面影が消えるわけではない。結局は彼女の姿を心により刻みつけるだけだ。忘れられる方法なんて存在しない」


【彩斗M】

「俺はいつの間にかロミオの一挙手一投足に魅入っていた。自分も役者側のはずなのに、いつの間にか観客側にさせられていた」


ぼさっとして自分の番を忘れている彩斗を、坂野が小突く。


【坂野】

「おい、お前の番だぞ」


【彩斗M】

「し、しまった!」


【母】

「ジュリエット…?」


彩斗は慌てて立ち上がる


【彩斗】

「ナッ、ナアニ、オ母サマ。ナンノゴヨウ?」


しかし、その芝居も表情もぎこちない。


【彩斗M】

「くそ、全然集中できねえ…!」


ぎこちない芝居のまま出番が終わる彩斗。一方、ロミオは春希演じる悪友マキューシオと舞踏会の乗り込もうとしていた。二階堂扇の演技は乱れることを知らない。もはや演技だということを忘れるレベルだ。


【春希】

「そうさ、こいつは夢の話。恋人どもの頭の中は花畑、商人ならお辞儀とゴマスリ、弁護士なら金貨と札束の夢と相場がきてる。せっかくなら気持ちの良い夢を見にいこうぜー!」

春希は持ち味の明るさで、扇の芝居に何とか食らい付いている。


【彩斗M】

「くっそ、次こそは…舞踏会で初めてロミオと出会うシーンだ。こいつに負けるわけにはいかねえ…!」


ロミオは真っ直ぐこちらを見つめ、近づいてくる。


【扇】

「君の手に巡礼するお許しを」


扇は自然に彩斗の手を取る。


【扇】

「ああ、だけどどうしよう。この賎しい手が君の心まで汚してしまう」


【彩斗】

「じ、自分の手に対して、随分な仰り方ですわね」


【扇】

「どうか手だけでなく、聖女の口づけを以って浄めて頂けませんか?」


【彩斗】

「わ、私が聖女?」


【扇】

「ええ」


【彩斗】

「こほん…く、口づけなんてするまでもなく、神を信じる者同士。手を触れ合えば浄められるというものです」


彩斗はセリフを追うのに精一杯で、目線も合わず、ややパニックになっている。扇はそのことに気付いている様子。


【扇】

「私は唇で浄めて頂きたいのです」


彩斗の体を引き寄せ、距離を詰める扇。


【彩斗】

「そ、それは祈りに使う唇ではなくて?」


【扇】

「これが私の祈りです」


【彩斗】

「こっ、困らせないでください。どれだけ祈られてもその祈りを聞く訳にはいきません」


【扇】

「では動かずにそのまま。私の祈りをただ迎えてくださればいい」


扇は自然な流れで優しく彩斗に口付ける。


【彩斗】

「んんっ!!!??」


【大地】

「えっ」


【坂野】

「マジか」


【春希】

「わお…」


【彩斗】

「………」


周りは驚き、彩斗の手から台本がばさりと落ちる。


【彩斗M】

「ええええええええっ、何、これ!? どういう状況!?」


さらにパニックになる彩斗。


【彩斗M】

「俺、キスされてる!? いや、そうじゃねえ、セリフ…セリフ返さなきゃ…でも、台本…くそ…どうすりゃいい!!」


台本を拾おうかどうしようか迷っている彩斗を見かねて、扇が耳元で囁く。


【扇】

「目瞑って」


【彩斗】

「えっ」


【彩斗M】

「そんなセリフあったっけ、なんて考える暇もなく、再びロミオの唇が触れた」


扇は彩斗を抱き寄せて、今度は深く深くキスをする。周りはあまりに急なことで驚き、その状況を見守っている。


【彩斗M】

「それは優しく包み込むような深い口付け。けど、瞬間的にわかった。きっと、こいつは俺にこの場に集中しろって言ってる。ああ、わかった。ならノってやるよ」


目を瞑ってキスに集中する彩斗。呼吸が整ったことで、完全に芝居のスイッチが入る。それを察して、唇を離す扇。


【彩斗】

「…祈りにしては…罪深いわ」


彩斗は完全に恋する少女の顔をしていた。自然と溢れたのは、セリフではなく彩斗の口から溢れた真実の言葉であった。周りには彼らが彩斗と扇ではなく、ロミオとジュリエットの姿に見えている。


【アキ子M】

「なるほど。他人から強制的に役を引き出す…か。伝播するリアリティ、これが二階堂扇が天才たる所以…こりゃあ、面白くなりそうだ」


不敵な笑みを浮かべるアキ子。


(第2話へ続く)

0コメント

  • 1000 / 1000