空の王者、リオレウス!

登場人物

アギト

ポッケ村のハンターで、大剣使いの青年。ティガレックスの特殊変異種だが、物腰が柔らかく温厚な性格で、轟竜の面影はあまり見えない。本気を出すと目が血走り、気性が荒くなる。


リーオ

ココット村のハンターで、ランサーの少年。リオレウスの特異変異種だが、原種を狩るのが得意で、ギルドでは【火竜殺し(フレイムキラー)】の名で通っている。


レオン

新米ハンター、狩猟笛使いの少年。リオレウス亜種の特殊変異種。


設定

特殊変異種

(擬人化キャラのことをこう呼んでいます)

特殊変異種は、人の姿を取るモンスターのこと。細胞組織、骨格、内臓器官の違いから、完全に人というわけではない。

人間社会での生活に適応する為、戦闘面での能力は失われつつあり、近年では、角や尻尾などのモンスターとしての外見的な名残も消失傾向にある。


空の王者、リオレウス!


「リーオ、避けて!!」


叫んだ声は空しく響く。アギトの声はリーオに届かなかった。


その声では、がむしゃらに突っ込んでいく少年を制することができなかったのだ。


結果、リーオは怒りに満ちた火竜のブレスをその身に受けることになる。


「ぐわっ…!!」

「リーオ!」


身を焼くような熱さに悶え、地面をのた打ち回るリーオ。それは"火竜殺し"の異名をとる彼にしては、珍しい光景であった。


ランスの盾でも防ぎきれずに、下位の火竜からブレスをくらう姿を見るのは初めてだ。


G級のリオレウスですら瞬殺してしまう彼がどうして…?


アギトはリーオが何かにイラついていることを感じ取っていた。


「ちっくしょう…」


なんとか立ち上がり、尚も考えなしに突っ込んでいこうとするリーオ。


そんな彼を、アギトは今度こそ制した。


「待ってリーオ、何をそんなに焦ってるんだ? 考えなしに突っ込んで勝てる相手じゃないだろ!」


「うるせえ…! もう、時間がねえ…俺がやるっきゃねえんだよ!」


「落ち着けって! 相手はもう弱ってきてる…最後は爆弾と罠で仕留めるって話し合っただろ!」


「だったら、俺が突っ込んでる間に仕掛けろよっ!」


狩猟も終盤となり、相手を巣のあるエリアに追い込んだはいいが、それには時間がかかりすぎた。


迫り来るタイムリミットに焦りを覚え、下位の火竜相手に苦戦している自分にイラつくのも分る。


二人の口論は次第に激しくなっていった…。


しかし、ここは狩場である。相手は二人の事情など考えてはくれない。


「アギトさん、リーオ君、避けて!」


別の少年の声が、遠くから聞こえてきた。


口論で熱くなっていても、二人はハンターである。一瞬で我に返り、向かってくる火竜の突進を寸でのところでかわす。


数秒前、自分がいたところを巨体が駆け抜けていくのを見て、アギトは青ざめた。


下位といっても侮ってはいけない。狩りに絶対はないのだから…。


それに、このままじゃいけない。アギトはアギトで別の焦りを見せ始めていた。


パーティの連係は完全に崩れ、互いの息がまるで合わせられない。


このままでは狩猟を失敗するどころか、冷静さを失ったリーオが大怪我をするかもしれない。


そうなってからでは遅いのだ。どうにかして彼を落ち着かせなければ。


「レオン、強走効果切れてんぞ!」


「あっ、はい…」


レオンと呼ばれた少年は慌てて背負っていたルナリコーダーを手に取り演奏を始める。


彼は今回だけ、特別にパーティーに参加したハンターである。


今回の狩猟は、いつもとは違う少々特別なものだった。


まず明らかに違うのは、狩猟が行われている場所である。


ここは一般に"孤島"と呼ばれるフィールドだ。


アギト、リーオの慣れ親しんだ第3大陸ではなく、遠く離れた第5大陸にあるフィールドなのだ。


何故、彼らがこんなにも遠く離れた地で狩猟をしているのかと言うと…


先日よりギルド側の特別配慮で、ロックラックから狩猟の受付ができることになったからだ。


普段、他ギルドのハンターが狩猟を受ける場合は、いくつかメンドウな手続きを踏まなければならない。


それが、今回は簡単な手続きのみで狩猟可能らしく、アギト、リーオ、そしてレオンの三人は飛んできたのである。


「二人とも、もっと相手の動きに注意してください」


「ありがとう、レオン君。リーオ…一旦回復した方がいい」


「黙ってろアギト! 俺はまだやれる!!」


わざわざ遠出してきたはいいが、この状況はあまりによろしくない。


初めは下位のリオレウス相手ということと、孤島が火山や凍土に比べて環境が安定したフィールドであるということから、ウォーミングアップ程度に考えていた。


しかし、蓋を開けてみればこれである。


ウォーミングアップどころか、クエストの成功さえ危ぶまれている。


苦戦の理由は恐らく"地域差"であろう。


ドンドルマ付近のリオレウスと、この地域のリオレウスでは行動にだいぶ差異が見られる。


外見的にも、翼がやや肉厚であったり、足の形がモノを掴みやすくなっていたりと違いがあるが、行動パターンの差は狩猟に大きく影響した。


特に三人を苦しめたのは、突進時のモーションの違いである。


ドンドルマのリオレウスは突進した時、その巨体で倒れこむことで勢いを殺すのだが、孤島のリオレウスは違った。


疲労していなければ、突進しても倒れこまないのだ。


足の力が相当強いのだろう…突進の勢いを足だけで止め、その場でぐるりと方向転換することもある。


倒れこまないということは、そこに切り込む隙もないわけで…これは、剣士としては攻撃のチャンスを一つ失ったことを意味する。


さらに、肉厚な翼は対空時間を長くし、空中で無理矢理身体を捻って方向転換が可能だったりと、厄介な動きも多い。


そんな理由から、狩猟にかなりの時間がかかっているのである。


「くっそ、切れ味が落ちてきたか…」


「リーオ、いい加減にしろ! 一人で狩りをしてるわけじゃないんだぞ!!」


「んなこと分ってるつーの!」


口論を続けながら、リオレウスの攻撃をかいくぐる二人。


離れたところで、レオンがリオレウスの注意を惹き、隙を作ろうとしている。


リオレウスの方も怒りに任せて暴れまわり、生き残ろうと必死だ。


遠くのレオンに向かって、力いっぱいの突進をお見舞いする。


そんなリオレウスに追走するのはリーオ。


ランスを手に一撃決めようとした、その時だった。


「ダメだ、リーオ!!」


「えっ…」


リオレウスは突進後、倒れこむことはく急停止…一瞬の油断。


レオンが突進を横っ飛びに避けたところで、器用に足を踏み変えながら、勢いよく身を反転させる。


尻尾がムチのようにしなり、横につけていたリーオの脇腹に強力な一撃を叩き込む。


運の悪いことに、リーオの弾き飛ばされた先は崖だった。


リーオの体は宙に放り出され、そのまま海の方へと落下していく…。


「リーオッ!!!」

「くそっ…」


アギトの怖れていたことが、起こってしまった…。


何をすることも出来ず、リーオが海に落ちていくのを遠目に見ているばかり…。


一方のリーオは、海面に叩きつけられるまでのわずかな時間に、己の行動を悔やんでいた。


パーティの輪を乱し、一人焦っていたのは誰だ。


下位の火竜ごときに苦戦し、イラついていたのは誰だ。


仲間の言う事に耳をかさず、がむしゃらに突っ込んでいたのは誰だ。


その結果、こうなった。全部、自分のせいじゃないか…一体、何しにここに来たんだ…。


「ゴワアァァァァァァァァアアアアアァァァァァァァァァアアアアアアアッ!!!」


空の王者の咆哮が、空気を揺らす。


アギトの手はいつしか震えていた。

それは、恐怖か、怒りか、悲しみか…。


自分の中に沸き起こった感情が何であるかも分らない。


ただ、アギトはやけに落ち着いた様子であった。


胸の内は、身体は確かに熱いのに、頭だけが妙に冷静で…その瞳が、微かに充血しているように見えた。


「レオン君…リーオを頼む。この下はエリア11に続いてる…蔦を登ればここに帰ってこれる」


「アギト…さん?」


「ここは俺が何とかする」


「わっ、分りました…無理はしないで下さいね?」


レオンは狩猟笛を担いで、リーオが落ちていったエリア11に向かって飛び降りた。


対するアギトは、背負った大剣の柄に手をかけ、いつでも抜刀できる状態にいた。


ソロでの狩猟経験は少ない。自分の実力では、下位であっても火竜の相手は難しいかもしれない。


ならばせめて、ここで奴に休む隙を与えるべきではない。


仕留められずとも、プレッシャーを与えるくらいはできると、リオレウスを睨みつけた。


リオレウスの眼は真っ直ぐ、アギトだけを捕らえている。


怖い、怖い、怖い、怖い、怖い…でも、やらなくては、二人が帰るまで持ちこたえねば。


思い出せ、いつの日かみんなで轟竜を狩った時の感覚を…この防具に、武器にたくさんのことを誓っただろう。


アギトは静かに深呼吸をした。その瞳は血の如く赤に染まっている。




ヒュー、バシャンッ、ゴポゴポゴポ。


水の冷たさは、奇妙なくらい心地がよかった。キラキラ光る水面が、徐々に遠ざかる…。


背中から海面に勢いよく叩きつけられたせいで、リーオは肺の空気のほとんどを吐き出してしまった。


武具の重みで沈んでいく体。重力に逆らうこともせず、彼は体の力を抜いて眼を瞑った。


アギトのいうことを聞いて、回復しておくべきだった。


もう海面まで上がる気力さえない。


レオンのかけてくれた強走効果も切れはじめ、水が段々と重く感じられる。


"ああ、俺…ここで終んのかな…"


泡の音が心地よく耳に響く。


胸は苦しいが、どこか安らかに、諦めたように、海の底へと落ちていく。


はるか頭上で、何かが水に飛び込んできた気もするが、もう眼を空ける余裕はない。


"ごめんな、アギト…俺…"


意識を手放そうとしたところで、急に現実に引き戻された。


誰かがリーオを引っ張りあげている。急速に目の前が明るくなった…。


気づけば海上まで来ており、リーオは水を吐き出して空気を吸い始めた。


意識が追いついたのはその少し後である。


「ゴホッ、ガハッ…」


「リーオ君…大丈夫?」


「レオンか…サンキュ…死ぬとこだった」


レオンはリーオを支え、浮いたままの状態で、器用にもアイテムポーチから回復薬を取り出した。


リーオはヘルムを外してそれを受け取ると、ゆっくりビンの中身を空にする。


呼吸が落ち着いたところで、二人は頭上を見上げた。陽の光がとても眩しい。


「アギトさんが上で戦ってます」


「あいつ、一人でか…?」


「はい。ここは俺に任せて、リーオ君を頼むって…」


「あのヤロー、一人でできんのかよ…レオン、行くぞ」


「えっ、あ、はい…」


リーオはヘルムを被りなおすと、崖の上へと続くツタに手をかけ、四時登っていく。


先ほどのピリピリした空気は、もうそこになかった。


海に落下したことで、頭が冷えたのだろう。彼は冷静さを取り戻したようだ。


レオンはそんなリーオに安心し、後に続いてツタを登っていった。




一方で、一人リオレウスを相手にするアギトは…。


「はあ…はあ…一人だとこんなにキツイなんて」


「ガアアアアアァァァァァァ、ゴワァァァァァァ!」


落とし穴にはまり、もがき苦しむリオレウスの首元に、大タル爆弾Gを二つ置き終えたところだった。


当初の予定では、トドメに罠と爆弾を用いることになっていた。


しかし、それは囮役がいてこそ成功すると言うもので、一人では罠を仕掛けるのさえ難題である。


アギトは手持ちの閃光玉を全て使い切り、やっとの思いで罠を仕掛け、爆弾を置くに至ったのだ。


だが、そろそろリオレウスが罠から抜け出してしまう…急がなければ…。


起爆用の小タル爆弾を置こうと、エリアの端に置いた荷車へと戻るが、そこには小タル爆弾が見当たらない。


「あれ、おかしいな…確かこの辺に…」


「ゴワアアアァァァァァァァアアアアアア!」


「くっ、時間がないっ」


慌てて運んできた為か、小タル爆弾を忘れるという重大なミスを犯してしまった。


あと一歩のところ、このまま行けば相手に決定的なダメージを与えられると言うのに…。


「アギト!!」


「えっ、リーオ…?」


「一人で無茶するじゃねーかよ」


崖をよじ登って登場したリーオ。


思ったよりも元気そうだ。それに、いつもの様子に戻っている。


その姿を見て安心したアギトだったが、気は抜けない。


落とし穴の効果時間はあと僅かだ。


「早く起爆しねえと…」


「それが…小タル爆弾を忘れちゃって…」


「はあ!? ったく、せっかく見直したところだったのに!」


「うっ、ごめん…」


「しょうがねえなあ」


リーオは何を思ったか勢いよくリオレウスの方へと駆け出した。


武器も出さずに走っていくリーオを見て、レオンもアギトも、驚くばかり。


彼が何をしようとしたか、分った時にはもう遅かった。


「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」


「リッ、リーオ君!?」


「リーオ、待って!」


全力でリオレウスの元に駆け込んだリーオ。


そして、そのままの勢いで首もとの爆弾を力いっぱい蹴り上げた。


一瞬で爆発が起こり、もう一方の爆弾も誘爆する。


土煙が舞い上がり、リーオの姿はすっかり見えない。


そう、彼は自ら大タル爆弾Gを爆発させに飛び込んだのである。


焦げた匂いと、巻き上がる土煙とを風がさらって行った…しばらくして、やっと視界が開ける。


見えたのは、首元から血を流して絶命するリオレウスと、片膝をついて呼吸を荒げるリーオの姿。


「必殺、漢起爆…なーんてな」


ヘルムを外し、ニヤリと笑ってみせるリーオ。


肩で息をしているところを見ると、ダメージは0ではないようだ。


けれど、その…どこか、してやったりという表情は、アギトとレオンに笑みを齎した。


「全く…無茶はどっちだよ」


「ふふふ…討伐完了、ですかね」


色々あったが、孤島でのクエストはクリアのようだ。


アギトはリーオに歩み寄り、手を差し伸べる。


リーオもその手をとり立ち上がった。


「アギト、さっきはわりぃ…俺…」


「いいよ。もう済んだ事だし。次は気をつけるでしょ?」


「ああ、二度とあんなことにはならないようにする」


「うん。なんにしても、無事でよかった…」


アギトはリーオの手をぎゅっと握リ直す。無事でいてくれて、本当に良かった。


リーオも、彼の手を力いっぱい握り返した。


離れたところでそんな二人の様子に柔らかく笑むレオン。


遠く離れた地で、いつもとは違う状況で狩りをすることで、見えたことがたくさんあった。


どんな状況にあっても、ハンターは冷静な判断を下さなければならない。


そして、狩りは"慣れてはいけない"のだ。ほんの少し状況が違うだけで連係が崩れるハメになる。


常にその場の状況に対して柔軟に対応しなければならない。


また一つ、成長すると共に狩りの奥深さを知ったハンター三人であった。


彼らの進む道に、果てはない。


0コメント

  • 1000 / 1000