「舞い散るは桜か雪か」第3話

「まったく、忌々しい…どうして…どうして、いつも俺だけ…」


祇園雪景は怒りに燃えていた。


その身を焦がしてしまいそうなほどの怒りは、全て妹である雪乃と、許嫁である桜へと向いている。


幼い頃から、彼らは兄弟揃って出来損ないだと揶揄され、何かと苦労をしてきた。


兄である雪景は九尾をまともに扱えず、妹である雪乃は女の身でありながら天狐を受け継ぎ、その強大な力に肉体が耐えられないでいる。


雪景はずっと、妹は自分と同じ立場だと思っていた。


だが、違った。雪乃は天狐なしでも妖と渡り合えるほどの力を手に入れ、許嫁である桜の心さえ奪っていった。


祇園家の老害どもに何を言われても、毅然とした態度を崩すことはなく、それはまるで強者の振る舞いだった。


一方の雪景は、前当主であった父の遺言で、ようやく今の地位につけた身だ。


彼は生まれながらに何も持っていなかった。


空っぽだった。


誰も彼を相手にしなかった。


彼の中の"九尾"以外は…


「憎い、憎い、あいつらが憎い…! 全てを焼き尽くしてしまえたら、どれだけいいか!!」


雪景の怒りが頂点に達した時、初めて彼に話しかける声があった。


「その願い…わしが叶えようか。祇園の子よ…」


「だ、誰だ…!」


九尾は主人の怒りに強く反応し、その願いを叶えるべく顕現する。


「なんだ…力が…力が湧いてくるぞ…!」


雪景の周りを赤黒い炎が包み込んだ。


耳は狐のような形に変化し、爪も鋭く伸びていく…しまいには、九つの長い尾が彼の背後で揺らめいていた。


「ふはははっ!!これなら、これなら俺は誰にも負けない!! 俺を馬鹿にした全てを焼き尽くしてやる!!」


祇園の屋敷は赤黒い炎に包まれ、異常な妖気が辺り一体に立ち込めた。


それは祇園の当主が、醜い妖へと堕ちたことの証明に他ならなかった。

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