「まったく、忌々しい…どうして…どうして、いつも俺だけ…」
祇園雪景は怒りに燃えていた。
その身を焦がしてしまいそうなほどの怒りは、全て妹である雪乃と、許嫁である桜へと向いている。
幼い頃から、彼らは兄弟揃って出来損ないだと揶揄され、何かと苦労をしてきた。
兄である雪景は九尾をまともに扱えず、妹である雪乃は女の身でありながら天狐を受け継ぎ、その強大な力に肉体が耐えられないでいる。
雪景はずっと、妹は自分と同じ立場だと思っていた。
だが、違った。雪乃は天狐なしでも妖と渡り合えるほどの力を手に入れ、許嫁である桜の心さえ奪っていった。
祇園家の老害どもに何を言われても、毅然とした態度を崩すことはなく、それはまるで強者の振る舞いだった。
一方の雪景は、前当主であった父の遺言で、ようやく今の地位につけた身だ。
彼は生まれながらに何も持っていなかった。
空っぽだった。
誰も彼を相手にしなかった。
彼の中の"九尾"以外は…
「憎い、憎い、あいつらが憎い…! 全てを焼き尽くしてしまえたら、どれだけいいか!!」
雪景の怒りが頂点に達した時、初めて彼に話しかける声があった。
「その願い…わしが叶えようか。祇園の子よ…」
「だ、誰だ…!」
九尾は主人の怒りに強く反応し、その願いを叶えるべく顕現する。
「なんだ…力が…力が湧いてくるぞ…!」
雪景の周りを赤黒い炎が包み込んだ。
耳は狐のような形に変化し、爪も鋭く伸びていく…しまいには、九つの長い尾が彼の背後で揺らめいていた。
「ふはははっ!!これなら、これなら俺は誰にも負けない!! 俺を馬鹿にした全てを焼き尽くしてやる!!」
祇園の屋敷は赤黒い炎に包まれ、異常な妖気が辺り一体に立ち込めた。
それは祇園の当主が、醜い妖へと堕ちたことの証明に他ならなかった。
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