「雪乃様、一人で妖の相手をされたと聞きましたが?」
「妖を祓うは祇園の役目。役目を全うして何が悪い?」
「またお爺様たちに何か言われたのですね」
「いつもの事さ。身の程を知れと…まったく、私だって好きで天狐に選ばれたわけではないというのに…全く祇園の男どもには反吐がでる」
雪乃様はいつも一人で戦っていた。好奇の目に晒され、祇園家に居場所はなかったけれど、それでも彼女は生き方を曲げなかった。
「この体でも十分やれるという事をジジイどもに分からせてやるさ」
だからといって、天狐の力なしで妖を祓うなど無茶がすぎる。彼女はいつも、鍵である私を置いて1人で行ってしまう。
「雪乃様、お願いですから…次は私も連れて行ってください」
「断る。私の可愛い桜の身に何かあっては困るからね。それに、私は天狐の力に頼るつもりはないよ」
神獣・天狐の力は凄まじく、雪乃様の体はそれに耐えうる器ではなかった。
故に、私が力を開放すれば、天狐の炎はたちまち彼女の透き通る素肌を焼き、それは強烈な痛みを伴うのだ。
「祇園としても、器としても、女としても、私は半端者だな」
そう言って彼女は着物を脱ぎ捨て、傷物になった体を露わにさせた。
「そんなことありませんよ。私は知っています。あなたは誰よりも美しく、気高いお方だと…」
私はその傷のひとつひとつに口づけを落とす。少しでも彼女の痛みに寄り添いたかった。
「私が男なら、祇園の当主にもなれたろうし、天狐にこの身を焼かれることもなかったかもしれん。お前との事だって、誰にも何も言わせなかったのにな」
「私は何も気にしておりませんよ」
そう言って、私は彼女の唇に自分のものを重ねて、その弱音を封じるのだ。それしかできない。それしかさせてもらえない。
「心からお慕いしております。雪乃様…」
私は…あなたという雪が溶けてしまうくらいなら、弥栄として咲き誇らなくても構わない。
天よ、どうかその陽で、彼女を溶かさないで。
0コメント