「舞い散るは桜か雪か」第2話

「雪乃様、一人で妖の相手をされたと聞きましたが?」


「妖を祓うは祇園の役目。役目を全うして何が悪い?」


「またお爺様たちに何か言われたのですね」


「いつもの事さ。身の程を知れと…まったく、私だって好きで天狐に選ばれたわけではないというのに…全く祇園の男どもには反吐がでる」


雪乃様はいつも一人で戦っていた。好奇の目に晒され、祇園家に居場所はなかったけれど、それでも彼女は生き方を曲げなかった。


「この体でも十分やれるという事をジジイどもに分からせてやるさ」


だからといって、天狐の力なしで妖を祓うなど無茶がすぎる。彼女はいつも、鍵である私を置いて1人で行ってしまう。


「雪乃様、お願いですから…次は私も連れて行ってください」


「断る。私の可愛い桜の身に何かあっては困るからね。それに、私は天狐の力に頼るつもりはないよ」


神獣・天狐の力は凄まじく、雪乃様の体はそれに耐えうる器ではなかった。


故に、私が力を開放すれば、天狐の炎はたちまち彼女の透き通る素肌を焼き、それは強烈な痛みを伴うのだ。


「祇園としても、器としても、女としても、私は半端者だな」


そう言って彼女は着物を脱ぎ捨て、傷物になった体を露わにさせた。


「そんなことありませんよ。私は知っています。あなたは誰よりも美しく、気高いお方だと…」


私はその傷のひとつひとつに口づけを落とす。少しでも彼女の痛みに寄り添いたかった。


「私が男なら、祇園の当主にもなれたろうし、天狐にこの身を焼かれることもなかったかもしれん。お前との事だって、誰にも何も言わせなかったのにな」


「私は何も気にしておりませんよ」


そう言って、私は彼女の唇に自分のものを重ねて、その弱音を封じるのだ。それしかできない。それしかさせてもらえない。


「心からお慕いしております。雪乃様…」


私は…あなたという雪が溶けてしまうくらいなら、弥栄として咲き誇らなくても構わない。


天よ、どうかその陽で、彼女を溶かさないで。

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